ドナルドトランプの危険な兆候 精神科医達はあえて告発する BANDY X.LEE(M.D., M.Div.)編 村松太郎訳 岩波書店
読んだ理由:
トランプ大統領が、大統領選の時からあまり大統領になりたくなさそうだったこと、当選した時にもでもやっぱり嬉しくなさそうだったこと、発言が他の政治家にはいないぐらいストレートでわかりやすいことに、なんとなく気にかかっていたので、専門家から見るとどうだったのか興味があった。
また、神学修士ももつ医学の研究者である著者や、発達障害が専門であったり、ユダヤ教の正統派だった医師などを含む、全米から精神科医・心理学者たちがイェール大学に参集し、直接診断していない人に対して精神科医がコメントを出してはいけないという倫理規定を超えて多面的に論じ、 専門家の社会的責任とは何かをも問うているので興味を持った。
印象に残った箇所・気づき・読んでいて思ったこと:
・ 一つの分野に精通することは、視点がひとつに限定される危険を伴う。タイトルの精神科や心理学の専門の垣根を越えて、言語学者・哲学者・歴史学者である博士の見解や対話もこの本には載ってて良かった。
・暗いとき、目は見え始める(アメリカの詩人セオドア・レトキの一節)
・問題は危険性である。精神疾患ではない。
・ジャーナリストのトニーシュワルツ氏によると、トランプ大統領は客観的に見れば、地球上の誰よりも達成感と優越感を持っているはずであるのに、ヘロイン依存も患者が自由にヘロインを入手できるようになることで依存が治ったと言っていることと同じような状態にあり、失敗したり無力感を味わう場が以前よりはるかに巨大なステージになっただけという状態にある。(何の痕跡も残らない、持続ということがない、ただただ自分が愛されることを希求する人と同じだ。)
・学者兼ジャーナリストのゲイル・シーヒー氏によると、ナルシストやパラノイアということよりも、トランプの最大の懸念は彼が誰も信頼しておらず、それが原因で破滅する可能性がある。
・世界の危険にあふれており、どこまでもタフでなければ自分を守れない。それがトランプの世界観。
・人は他人を信頼しすぎる。私は他人などまず信頼しない。最高の人物を雇え。だが彼を信頼するな。悪意と残酷、それが世界というものだ。友人でさえも虎視眈々と狙っている。あなたの仕事を狙っている。あなたの金を狙っている。あなたの妻を狙っている。人間の持つ悪意はどんな動物より強烈だ。人生は戦いだ。勝利すれか敗北するかのどちらかしかない。(トランプ)
・トランプ大統領の伝記「Never Enough(決して満足しない)」
・部下を信頼しないリーダーは誰からも信頼されない。トランプは自分は強烈なほどまでに誠実であると大口を叩いているが、彼自身の誠実さは状況次第で手のひらを返すように失われる。(まるで以前働いていたブラック企業にいたモラルもマナーもひとかけらもなかったパワハラ上司みたいだ)
・ 精神科医の専門は精神疾患であっても、大部分のの精神科医は暴力を専門にはしていない。暴力の原因、結果、予測、予防は公衆衛生学や予防医学の領域とみなされているからだ。危険性の評価方法についてもほとんど研究されていない。危険性と DSM 5の診断との関係も何もわかっていないに等しい。
・精神疾患とは認知・感情コントロール・行動などの障害であると公式の診断基準である DSM 5に記載されている。
・高い地位にある人々は、本人の意図とは無関係に必然的に何らかの害を生み出す。高い地位にある人間の意思決定は、個人のレベルを超えた甚大な力を持っており、意思決定をするたびに一定の数の人々が何らかの形で傷つくことは避けられない。優れた指導者はできる限り、その被害を最小限に抑え、恩恵を受ける人の数を最大にするように努めるが、それでも被害をゼロにすることは不可能である。残念ながら何千万人、何億人と言った規模の人々を統治する以上これは宿命なのである。
・ 統合失調症など精神病はパーソナリティ障害より他人に害を及ぼす率は低い。
・イネイブラー:精神医学用語で本人の病気の進行を促進する人物のことを指す。
・大統領就任のその日から、まだ国民からの信任を得ていないのにも関わらず、自分は「最も偉大」「すごい」「誰よりも物が分かっている」などと繰り返し声高に入っている。(過去のとんでもなかった上司達と一緒だ。。)彼の言葉は DSM 5の自己愛性パーソナリティ障害の記述、すなわち「十分な業績がないにもかかわらず、優れていると認められていることを期待する」そのものである。結果として学ぶということができない。求められる種類の人間に成長することができない。自分を否定する事実に対しては復讐心を燃やすという形で反応する。
→( DSM 5の自己愛性パーソナリティ障害の記述を気の弱い人は理解しておくことが必要かも。)
・人はトラウマを受けると、思考の能力もコミニケーションの能力も損われるため、特別なサポートが必要になる。脳科学的にはトラウマは脳の言語中枢を抑制し、文字通り人から言葉を失わせることがわかっている。(やっぱりそうなんだ。人格障害の変な上司や組織にいたせいで、昔は営業もできていたしコミニュケーションをとることができていたのに、それから10年近く経った今も、企画書を作ったり人と話したりメールをしたりコミニケーションにとても恐怖を感じてしまうようになった。)
・トラウマ体験について語る言葉が失われている状態を、ジェイド・E・デイヴィスは「クライシス」と名付けている。デイヴィスの言うクライシスと、閉じた円であって、時間からの証言から隔離された状態である。そこには空間も視点もない。そこからは変化することも成長することもできない。セラピストに伝えることもできない。(自分のことなのに傍観者の状態?)。それに対してトラウマは、言葉として語られるものを指す。(証言できる証人になった状態?)。(ただ診断するだけでなく、クライシスやトラウマについての、要素としての真実について深い洞察をして解消手助けしてくれる医師や困ったことを相談できる人がもっといればいいのに。)
・「われ思う、故に我あり」と言うデカルトになる人間存在の定義は、21世紀の今「我発信する、故に我あり」に書き換えられなければならない状況になっている。
・健全な人間関係を維持するためには、人は冷静さを保ち、思慮ぶかく、慎重でなければならない。何かを恐れて短絡的に反応するようなことを避けなければならない。恐怖にかられて行動する人物や、洞察力のない人物は、パートナーとしてもリーダーとしても到底信頼を得ることはできない。
・他責者は特権意識が高い。(確かに。今後人付き合いで特に気をつけたいポイントだ。)
・マキャベリ的知性の強度は、前頭葉のドーパミン機能に関連することを示す科学的データがある。(S.Moriguchi et al.,Dopamine D2 Receptors in the Orbitofrontal cortex and the Machiavelian intelligence.)(アスペルガーが頑固で暴君みたいな変な偏見だけの適当情報がネットでたくさんあるけれど、本当のアスペルガーは前頭葉や脳機能に個性があるとしてもむしろ繊細でこだわりがあるから気が弱くてマキャベリ的知性は低いはず。イメージでいうとドラマGood Doctorの主人公みたいな、不器用でおどおどしてむしろマキャベリ的知性が低く人に利用されてしまいやすい感じなはず。マキャベリ的知性が強い人は、二次障害でドーパミン機能が不調になって人格障害起こしているか、アスペルガーでなく衝動性強いADHDなんでは?)