Lost in Translation: An Asperger in Tokyo zashikiwarashitanのブログ

アスペルガーである自分が、座敷わらしのように自分を歓迎して大切にしてくれる数少ない人々に繁栄と幸福をもたらす存在になって、残りの人生を有効に生きるため、日々試行錯誤したことを記録するただの自分用ノート代わりの日記

「貧困をバネに成功した」事例をロールモデルにしないために

「キモくて金のないおっさん」と「見えない弱者」の話をしよう | 文春オンライン

 

佐々木 でも、その方向性って僕は間違っていると思っています。もちろん彼らが貧困から出発して成功しているのは本当に素晴らしいことなんだけど、一方でそれが「ロールモデル」になってしまうと、そこにはまらない人は生きてけないし、結局「ジャングルで勝ち抜くことが正しい唯一の道」みたいな社会になっちゃう。そういう風潮はいい加減やめた方がいいんじゃないか、と去年くらいからずっと思っているんですよ。2000年頃から自己啓発本が流行り始めて、さらにその延長線上で最近オンラインサロンとかが流行っていて、一種の宗教みたいに怪しげなことになってるところもありますけど、「これってどこまで行っても出口はないんじゃないかな」と思っていて。

 

佐々木 そう。じゃあ何が必要になってくるかというと、「暮らし」だよねっていう。日常的にきちんと生活をして、コンビニ弁当とかじゃなくて、ちゃんとご飯を炊いて、7時間寝て、近くの公園でランニングして、お金をかけなくても健全な生活をすることが軸になっていけば、そんなに不安を感じることもなくなるんじゃないかって。健全な生活をしていれば、見た目は気持ち悪くならないから、人間関係がゆるやかに回復していくんじゃないかって思うんですよね。

吉川 「何も考えられないし、ここから逃げたい」。そういう風に精神が参っているときに、果たしてランニングができるのか、っていう問題があって。早起きもできないし、お米も炊けないし、何もできない。でも、世間ではそういう人たちがいることを知らない人の方が多いと思います。

 

佐々木 新聞記者をやっていて思いましたけど、詐欺事件の被害者に話を聞きにいったりすると、僕らが生きている世界とはまったく違う世界で生きてると痛感させられます。一言で言うと、周りにうさんくさいヤツしかいない。

 

佐々木 お互いに騙し騙されるみたいな世界に生きているんですよね。いわゆる善人とか、良識的な人も周囲にいないわけです。怪しい情報商材を売りつけている人しか友人にいない。そして、騙す人ってそういう相手を見分けるのがうまいから……。

 

佐々木 破産したりすると、その瞬間に社会資本だとか人間関係とかが全部壊れて、友人なんかもみんな逃げちゃうんだよね。

吉川 そうなんです。だから怪しくても「あ、助けてくれる人が現れた」って借りちゃうんです。「審査をするので免許証の写メと、家族の名前、勤務先、通っている学校、親戚の電話番号とか教えてください」って言われても、やすやすと個人情報を渡しちゃう。

 

佐々木 人間なんてそんなに本質的には変わらないと思うんです。

ロールモデルとのギャップに苦しむ人たち

佐々木 僕、高校の時に親が夜逃げしてるんですよ。そのときは名古屋に引っ越していたんですけど、両親が借金の保証人になったところ、当の本人が逃げたんで、こっちにとばっちりがきた。高校3年生のときに受験勉強していたら、ヤクザのおっさんが「こらー!」って殴り込んできてもうどうにもならなくなって、しょうがないから新聞配達しながら大学に行ったんですよね。

 

佐々木 父親は大きな会社の工場で働いていて、そのときの人間関係は良かったんですよ。ところがそこを辞めて、怪しげなビジネスをやるようになると、途端に家に出入りする人たちの顔つきが変わって、インチキくさい顔した人ばかり入ってくるようになって。

吉川 群がってくるのかな。

佐々木 あまりにもお金がないと人は追い込まれて、一発逆転しか狙わなくなるんですよね。少しずつ貯金するとか、地味な仕事でもやって日銭を稼ぐとかすればいいのにと思うんだけど、父親は「そんなんじゃ埒があかん! これを今やれば来月には何千万が手に入る!」とか言っていて、子供ながらに「そんなわけないだろ」と思うんだけど、そっちに行っちゃうんだよね。

吉川 そうやって追い込まれている人を狙って、甘い話を持ってくる悪いヤツがいますからね。

 

貧困とは孤立なのかもしれないですね

佐々木 僕の中では貧困って、経済じゃなくて文化だと思っていて。今、僕は多拠点生活とか地方移住で色んな人と交流してますけど、最近では優秀な若者が地方で年収200万円ぐらいで生活しています。でも貧しいかというと、そうではないんです。社会資本がしっかりしているからですね。友達がたくさんいて、地元の農家さんや近隣の人と仲良くしているから、家に帰ると野菜が置いてあったり、魚をもらったり、食べるのも苦労しない。家もタダで提供してもらっていて「お金を使うことがないよね」、と彼らは言っています。

吉川 そう考えると貧困って、「孤立」なのかもしれないですね。助けてくれる人も、周りにいないんですよね。

佐々木 それはそうです。僕は貧乏な家に生まれて、新聞記者になって気が付いたんですけど、優秀な新聞記者は、頭がいいとか悪いとかは関係なくて、他人に取り入るのがうまいヤツなんです。絶対口割らなそうな、汚職してる町長とかに話を聞きに行って、自宅のピンポン押して、そこでいきなりパッと中に入れる人がいるの。そういうコミュニケーション能力がすごい人って、見ていると育ちがいいやつが多い。

吉川 あ、それは分かる気がします。

佐々木 それって何でかというと、裏切られた経験がないからなんですよね。貧乏人の息子は「こんな風に取り入って近寄ったら嫌われるんじゃないか」と思って近寄れないんです。自分が人を信用していないから、他人もそうだろうと思ってる。